2022年のワールドカップでは、スペイン戦でのゴールに関わる部分でVARで気持ちの良い判定がされましたね。
世界的なスポーツでも徐々にVAR(ビデオ判定)が採用されていますが、日本ではなんと、国技の相撲で昭和の時代からビデオ判定が採用されているのです。
他スポーツでは2000年代に突入後、世界大会などをはじめとした主要な試合から、徐々に撮影済みの映像なども用いた判定が行われるようになってきたことを考えると、いかに早い段階でVAR(ビデオ判定)が用いられたかがお分かりになると思います。
ここでは大相撲でどのようにビデオ判定が使用されているのか、また、ビデオ判定を取り入れた歴史についてご紹介していきます。
大相撲でVAR(ビデオ判定)を使用するまでの流れ
通常の勝敗決定は行司が判断
相撲の取組(試合)に勝敗が決した時、行司(真ん中に立って「はっけよい のこった!」という人です。)が軍配(手に持ってる黒いうちわのようなもの)を勝った方の力士の方に向かって示します。
このとき、行司はどちらかに必ず軍配をあげなければいけません。
微妙な判定でも行司は引き分けを示すことができず、どちらかを示す必要があります。
そのため、行司や同体(引き分け)による取り直し(再試合)の判定を下すことができません。
また、禁手や反則についても行事は判断することはできません。
なので、「髷(まげ)をつかんだ」などの反則があったとしても、そのようなことを踏まえた判断を行うことはできません。
勝負審判による判定
行司が判断をできないのに反則負けや、取り直し(再試合)があるじゃないか!と思う方もいると思います。
このような微妙なことが起きたときは、土俵外すぐの四方に計5人(東・西・北(正面):各1人・南(向正面):2人)座っている「勝負審判」の出番になります。
勝負審判は日本相撲協会の「審判部」に所属している「年寄」(「親方」ときくとわかりやすいと思います)がなることとなっています。
勝負審判は、土俵の観客よりも近い位置に黒い和服を着て座っているので、テレビで見ていても存在はわかりやすいと思います。
勝負審判は、通常時は勝敗について行司に任せていますが、行司の軍配に意義を感じた場合(勝敗の逆・反則があった、もしくは同体など)、「物言い」(意義あり)の意思表示をして土俵上に集まり協議をします。
この段階で、最終的な勝負の結果判定は、勝負審判が行うことが確定します。
ちなみに、この「物言い」は土俵下で待機をしている力士も行うことができますが、協議は勝負審判が行います。
行司も協議の際に意見を勝負審判に伝えることは可能ですが、判定に加わることはできません。
ビデオ判定の出番
勝負審判が協議をする際、ビデオ室に連絡を取ります。
このビデオ室では、勝負審判とは別の親方が待機していて、ビデオを見たうえでの意見を、土俵上の各審判に伝えます。
そしてビデオ判定の意見も参考にして、正面の位置で見ていた審判が審判長となり、最終的に勝敗の決定を行います。
その後、軍配通り、行司差し違え、同体取り直しのどの内容になった場合でも、マイクを使用して視聴者や会場に審判長が説明を行います。
相撲がVAR(ビデオ判定)を取り入れた歴史
きっかけは誤審から!早期に対応した相撲協会
大相撲のビデオ判定は1969年(昭和44年)5月場所から始まりました。
ビデオ判定が始まったきっかけは1969年(昭和44年)3月場所に起きた誤審がきっかけになります。
大相撲は年間6場所開催されますので、2ヶ月に1回の開催となります。
これをふまえると問題があった誤審から次の開催のときには改善がされており、とても迅速に事が運ばれたことが伝わってきます。
判定の方法を今までなかったものにも頼るという大変革が起きた誤審とはどのようなものだったのでしょうか。
ビデオ判定をはじめるきっかけの誤審は横綱戦!
1969年3月の誤審がきっかけということでしたが、その誤審が起こったきっかけとは、大横綱大鵬が臨んだ1番でした。
大鵬は45連勝という記録を継続中の状態で、1969年3月場所3日目前頭筆頭の戸田との取り組みを迎えます。
取組では行司は戸田の右足が土俵を先に出ていたとして大鵬に軍配があがり、その後物言いがつきました。
勝負審判の協議後、行司差し違えで戸田に勝ち名のりが上がり、大鵬の連勝は45でストップすることになりました。
しかしニュースの映像や新聞の写真では戸田の右足が土俵を出ていたという証拠が出されていきます。
勝負審判により大鵬は負けとなりましたが、映像・画像の証拠では大鵬が勝ちとなっていたのです。
昭和戦後初期の人気の代名詞として言われていた「巨人・大鵬・卵焼き」の中に入っている大鵬に対する誤審ということもあり、ニュースや新聞で確認した国民から相撲協会に抗議の電話が殺到します。
その7日後の琴桜・海乃山の取組でも再度誤審騒動が起きました。
このようなことから、相撲協会はビデオ判定が判断材料の一つになることを世論からの非難により体感し、ビデオ判定の導入を行うこととなりました。
相撲がVAR(ビデオ判定)を導入しやすかった競技特性
1回の取組(試合)毎に頻繁に区切りが発生する
相撲の取組は一発勝負であり、だいたいの取組は1回長くても数十秒で終わることがほとんどです。
その為、行司の軍配に意義がある場合は速やかに協議をすることができます。
その流れでビデオを確認して、ビデオ室から連絡をもらうという工程は取組自体に影響を与えることがなく、導入をしやすい特性がありました。
時間の調整をすることができる
また、NHKによる放送が始まってからは、放送時間があるため、仕切りの時間(塩を撒いたり取組前に見合ってる時間です)に制限時間が設けられました。
この仕切りは時間制限があるといっても、それ相応の時間が元々取られているため、ビデオ判定で時間が圧迫された場合でも、この仕切りの時間に調整を行うことが可能です。
その為、物言いにビデオ判定による時間が追加された場合でも、NHKの放送時間内に取組を終えることが可能となっています。
すでに映像を確認する手段が整っていた
大相撲は1953年5月場所よりNHKのテレビ放送が始まっており、大鵬の誤審があった1969年時点では映像放送開始から充分な時間が経っていたため、技術的にもある程度成熟されていたことが予想されます。
その為、新たな設備投資などを行うことなく開始することができたことも、導入するうえでとても大きい要素だったと思います。
まとめ
大相撲におけるビデオ判定の使い方・昭和の時代から導入していたこと・またビデオ判定を導入しやすい競技だったことについてご紹介しました。
日本の伝統的な国技の流れという位置づけもあり、変更するということはなかなか難しい事だったとは思いますが、大きな誤審をきっかけとして、事の重大さを感じて早急に対策を行ったことが、当時としては他競技にさきがけて、最新の判定方法であるビデオ判定の導入がおこなわれました。
相撲だけに限らず、各競技でビデオ判定の導入は、審判不要論につながるのではと懸念されている方もいると思います。
しかし、あくまで困ったときに使用するサブ的なものであり、大鵬の誤審が起きたときのような状況にならないように、審判を守るためのツールと私は考えています。
また、この記事を見て頂いている方の中には、ビデオで見るだけではなく2022年のサッカーワールドカップのようにもっとシステマチックに自動で判定が出てほしいという方もいらっしゃると思います。
どこまでどのように取り組むかは難しいところですが、人に任せるところと機械に任せるところはそれぞれ違うと思いますので、いい塩梅の部分でこれから先、皆が納得する形で発展することを願っています。